「冷えていく鉄」他6作
クローバー

「冷えていく鉄」


鉄だとわかっている
何度目かの純情だから
素直に信じる
うん、わかっている
その熱では溶けてしまう事もない
背中が曲がる前の、愛しているは、信じない
少女の熱は放射して
あなたに伝導した
逃げたいって、クリームを塗る
錆びないために、表面ばかり眠たい。



「ショパンを聞きながら」


この牛舎の牛たちはショパンを聞きながら過ごす
この牛たちを腹におさめる人間もショパンを聞きながら過ごす
ショパンを消化しながらショパンを脳に刻む
人々はみなショパンになりショパンでないものはベートーベンだった
耳が不自由という意味ではなく何となく似ているという意味で
ショパンがつくった街に住むショパンで満たされたショパン
ショパンでできたショパンがショパンでショパンしている
子犬はワルツを踊り、雨だれも跳ねている
ショパンは、苦しそうに咳き込み
牛たちは肉になるまで、幸せな夢を見つづける。



「マイガーデナー」

白いものを植えてもいいと思うのですが
と、白衣の女性が言うものだから
それはあんまりですよ、求められるのは無くなったものの再現ではなく
わかっています、理想の構築なのでしょう
そうです、しかし、では理想とは何かを問われるとわからないのですけれど
禿げた頭を前にして
いっぽんいっぽん、植えていく作業はあと2時間続く。



「にくしみ(要冷蔵) 」

ドリップが漏れていますよ
白い服を汚していますよ
ほらなんだか
雲までも染まって、いえ、違いますね
心の底からドリップに浸って
罵倒を続けたい
消えてしまえ、お前なんか、消えてしまえ、消えてしまえ
そんな少女を描いて
僕の憎しみを、冷凍していく
お前の消えた世界は、嬉しくて幸せで、晴れ晴れしている
と少女に言わせて
僕を冷凍していく
白いシャツの裾からぽたぽたと赤
でも消えないで
と、言わせ    。



「無季」

デートに誘う口実が見つからない。
(さらに言うなら、デートに誘う相手も)



「キリ/サク 」

春がつぼみを切り裂くから
花は咲くのです
ダジャレじゃん
と君が言うから
僕の気持ちは咲くのでした。



「出口はこちら」

長々とお付き合いいただきありがとうございました
と言いながら、真剣な表情をして卵とご飯をかき混ぜる
出口はこちらとなっております
そう言うと大きく口を開き、その中に卵かけご飯を掻き込む
その卵はひよこになれなかったんだよ
と冗談めかして悲しむと
これ無精卵だから
と、悲しみの出口を用意してくれる
出口はこちら
扉の向こうから光が漏れている。



自由詩 「冷えていく鉄」他6作 Copyright クローバー 2015-05-20 21:19:08
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