夢に沈む前に
佐藤守
むかし
さよならも言わずに
別れた貴女と
いま、手を繋ぎ
真夜中の街を歩いている
「今までごめんね」
私は静かに首を振り
貴女の手を強く握り返す
***
どこに向かっているのだろう
ずいぶん長い道のりを
歩いてきた気がする
ゆっくりと
歩幅を合わせて
あの時の私たちは
足元ばかりに気をとられ
道に迷ってしまったのだ
***
深い闇に包まれた街角
すれ違う人もいない
足どりが重くなり始めた貴女に
私はベンチで休むことを促し
飲み物を買ってくることを伝える
貴女はただ
優しく笑った
寂しい夜の公園に一人残して
私はほうぼうを探し歩き
ようやく見つけた飲み物を抱えて戻ると
貴女はどこにもいなかった
どこにも
ベンチに腰を掛け
私もずっと待っていた
夜の闇の中
貴女もずっとこうして
祈っていてくれたなら
***
貴女は今日も
雑踏の中に身を投じ
疲れ果てて眠りにつく
私のことなど微塵も考えることなく
けれど私は貴女に伝えなければならない
貴女が私のもとに帰ってこないことを
私はとてもよく知っていることを
ねぇ、そうして私は
さっき見た夢の中で
貴女の名前を一度だって思い出すことが出来なかったよ
さよなら