戦慄
イナエ

中学生になってはじめて学校へ行った日
いくつかの坂道を登り下りし
いくつかの集落を抜けてたどり着く

坂道は辛かったが 
ところどころに桜が花をつけていて
気分は悪くなかった

集落は緊張した
子どもに噛みつく言い伝えの犬が吠えていたり
何かと噂のある青年が にたにた笑っていたり
それらに目を合わないように急いで通る抜けた

その日 学校は古びた門柱もあたらしく見え
どこか都会風な雰囲気が漂っていた

学級が決まり式も終わったが
遠くから来たものたちは弁当を食べて帰る
ぼくは給湯室に準備された大きなヤカンの
お茶を教室に運んだ
どうしたことか教室は空だった
そのうち戻ってくるだろうと
ひとり 弁当を取り出した

女の子達がどやどや入ってきた
ガヤガヤと話しながら弁当を広げた
男の子は誰も戻ってこなかった
仕方なく教室の片隅で弁当を広げた

一人の少女がヤカンを持って
湯飲みにお茶を注いで廻っていた
片隅にひとりで居るぼくのところに来た
ぼくは弁当箱の蓋を差し出した
そこへお茶を入れるのがぼくらの習わしだった

すると少女は 湯飲みないの と聞いた
意外に思って 口ごもるぼくをよそに
少女は大声で他の子に聞いた
「誰か余分な湯飲み持っていない?」
その瞬間だった 
ぼくの中を不思議な戦慄が走り抜けたのは


自由詩 戦慄 Copyright イナエ 2015-05-19 09:19:07
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