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mizunomadoka
7
列車は一時間遅れで駅に着いた
駅員に辻馬車の手配を頼む
行き先を告げると
あのお屋敷にはもう誰も住んでおりませんが
と御者が問うので
私は構わないと頷き
門の所までで良いと伝える
馬車は森を抜け
人気のない道を走っていく
冬は明けたのに痺れるような寒さ
トランクから膝掛けを出して
汚れた窓から外を見る
もう夜のように暗い
目を閉じて揺られる
鈴が鳴り
アーチが見えたと御者が言う
8
門は閉ざされている
鎖で巻かれ錠が下りている
不安げに私を見つめる御者に
銀貨を二枚渡す
馬車の明かりが消えるまで見送って
カンテラに火を点す
鉄柵に沿って歩く
庭は荒れ放題で
伸びすぎた枝が飛び出している
窓には鎧戸
ポケットの鍵を確認する
戻ってきた
あの人の言うとおり
裏門の鍵は当時のままだった
庇のおかげで錆びもなく
わずかな抵抗で扉が開く
道を覆う雑木をトランクで押し分けて
足下の砂利を頼りに進む
屋敷の裏手に出ると
使用人口と厩が見えた
9
屋敷に入ると
私を帰さないように雨が降り出した
調理台にカンテラを置き
トランクからナイフを取って
靴を脱いだ
廊下に出ると食堂から光が漏れていた
音を立てないようにそっと近付く
半開きのドアの向こうに
彼女が座っている
出来の悪いホラーのように俯いて
私のことを知っていたのではなく
待ち続けていたのだろう
彼女は顔を上げた
まだ美しかった
無音で立ち上がって
私の手首を掴んだ
氷のような声で
「あの子は死んだのね」そう言って笑った