嫉妬
イナエ
風呂をたてると近所の家族が集まっていた頃のこと
風呂水運びはぼくの仕事だった
三十メートルほど離れた小川から
両手に水の入ったバケツを提げ運ぶ
萎えそうになる気持ちを
腕の力を鍛え野球選手になるのだと妄想をして
気力を奮い立たせ何度か往復する
その日 大人達は麦刈りに出払って
集落内はひっそりとしていた
隣の家の小籔の横を通るとき
男の子の声が漏れてきた
「どこから出てくるん?」
女の子の声が追いかけてくる
「見てて」
子どもだけの世界で
秘密の儀式が始まるらしい
お前見たことないだろう
ほっといていいのか
止めさせろよ
ぼくのなかで声が渦巻く
渦がしだいに大きくなって――
道端の小石を拾う
藪の方へ投げつける
石は竹に当たって
渇いた音を二つ三つ立てた
ぎくっとした気配が流れ出て
子どもの声が姿を現す
「誰かいる ○○ちゃんだな」
その声には 針も陰もなかったが…