Amefuri
Debby

長い休暇から
雨降りが逃げ出した
もうずっと帰ってこない
雨降りの日

彼女は滞りなく職務をこなした。書類は1ミリのずれもなく積み上げられ、文字たちはとても居心地良さそうに見えた。雨が降る日だった。彼女の職場、彼女のデスクから見える窓。壊れた雨どいがぶらさがったそこをを、誰も眺めない。

長い休暇には猫のことを考えた
猫を飼うことを考えた
そして彼女は結論づけた
私は猫を飼いたいのではない
猫を飼うことを考えたいのだと

彼女の打つ印影は実に美しかった。そこにあるためにそこにある、といった同語反復的な趣がそこにはあった。彼女は雨が降る日が好きだった。今日は雨が降る日でお仕事の日です。そう繰り返すと、正しい場所で正しいことをしているという実感がもてた。

長い休暇には雨が降らなかった
ベランダの洗濯機は毎日くるくると気持ちよく回り
衣類はみな正しい場所に収まった
部屋の中で間違っているのは自分だけだという気持ちになった

ある日、雨どいは崩れて落ちた。時間の問題だったのだ。誰かが修繕すべきだった。でもしなかった。そのようにして、彼女の長い休暇が始まる。今日は雨が降らない日で、お仕事の日ではありません。そういう風にして、彼女は一日一日をやり過ごした。

長い休暇の終わりを考えた
彼女は裸足のまま
雨の中を踊っている
ずっと遠い場所で
長い休暇は続いている
雨はまだ降らない


自由詩 Amefuri Copyright Debby 2015-05-14 16:27:35
notebook Home 戻る  過去 未来