青い春
Mélodie

もうこの世にいない人の歌声を聴く度に、なぜわたしは彼の歌声をカセットテープに残しておかなかったのかと何度も思うけれど。
夢よりも幻よりも遠くなる感情に、名前をつけませんでした。
それはきっと正しくもなく、間違ってもなく。
恋よりも愛よりもずっと静かな、真昼の月よりも薄く、冬の匂いがするわたしたちには、サヨナラだけが真実でした。
川に花を手向けました。
きみの元へ届くように。
名前のない二人には、行き着く先もなかったけれど。
たしかにわたしたちはあのとき二人で生きていました。
きみと共に溶けていったわたしの半分は、雨になれたでしょうか。
それとも風になれたでしょうか。
わたしの中に溶けていったきみの思い出は、今でも時々この足を惑わせるのです。
わたしの声はきみのようにはうまく紡げない。
わたしの声はきみのようには優しく響かない。
きみの言葉はわたしの一番深くで鳴り続けている。
なのに、どうしてなのでしょう。
きみのいないきみが愛したこの世界をどうしても愛することができない。
わたしはきみがすきだといってくれたわたしをどうしても愛することができない。
約束を守れなくてごめんなさい。
わたしはきみのうらぎりものです。
あの日たしかに生きていたわたしたちを裏切るわたしを、許さなくていいから。



自由詩 青い春 Copyright Mélodie 2015-05-13 01:51:27
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