寝るまえのこと
はるな


夜になったら娘はわたしの手をひいて、底へつれていきます。わたしたちはくたくたの毛布をひいて横になり、しばらく転がって遊びます。
彼女のちいさくて厚ぼったい手のひらがじょじょにあつくなっていき、それから頭のうしろもかんかんにあつくなり、そして足のさきまで温まります。彼女の柔らかい合図をわたしはみのがしてはならない。娘はいつも、わかるように示してくれる。わたしはそれを受け取ります。
実は、母娘というのは、もっと理解しあっているものだと思っていました。とくに産まれてすぐの娘と産んですぐの母というのは。実際はそんなことはなく、わたしは娘の考えていることや、口に出すまだ言葉になるまえの音がなにを意味しているのかを理解することができない。ただいくつかの経験から予測したり、彼女の表情から感じとるだけです。そしてそれは、思っているよりもずっと、(自動的に理解するよりもずっと)安らかなやりとりです。そこにはわたしたちの信頼があります。理解できないまま信頼できる、安らかさです。わたしははじめて、こんなに他人から愛されたと思いました。生きているのや、生きていくのは恐ろしいこととおもってたし、今もそう、でも、わたしは、なんだか20年ぶりくらいにほっと安心したような心持がする。
眠りのふちで娘はわたしに鞠のようなからだを寄せてくる。わたしは、娘のひろい心に、わたしのちいさな心を寄せてねむるのです。



散文(批評随筆小説等) 寝るまえのこと Copyright はるな 2015-05-13 00:50:15
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