かえり道
藤原絵理子
電車の窓ガラスに映る
何か忘れ物をしたような顔は
別の世界にいる自分を夢見ている
手に入れたものと失ったものを 秤に載せて
手の中にあった 虹色の玉は
守ろうと握り締めた瞬間に 割れて
破片は 手のひらに突き刺さった 煌いて
血は手の甲を伝って 乾いた地面に滴り落ちた
失ったものは 重苦しく 胸の奥で燻る
青春の日の 五月の 耀きは
もう出番のなくなった 華やかな舞踏会を照らす
着飾った老人は 井戸の底に蹲って
見上げた丸い空に 星と月と太陽が
移りゆくのを眺める 無関係な世界を傍観する