日常の景色。
梓ゆい

父と過ごす最後の時まで
離れまいと決めた早朝。

冷えきった畳部屋であぐらをかき
ゆっくりと茶をすする父がいると
何気なく思う。

眠ったままの父をみつめ
正座を崩してそこに座れば
「あぐらをかくんじゃない。」と
すぐ横でお叱りが聞こえる。

父はこれから目を覚ます。いつものように起き上がりよろけながらも
私に「おはよう。」と返す。

何処かでそう考えた。

冷たい唇にそっと口づけをする母の愛。

そっと額に手をあてて
「おはよう、お父さん。今日も寒いね。」と
いつもと同じように話しかける。

大分冷たくなった父の首筋が
一緒に食べた特売のロースと同じ感触で
冷凍庫な中身を
一つも残さず処分したくなった。

(溶けた庭の雪。水溜まりが出来そうなはしっこの花壇。)

昼過ぎに差す光が
父の手の温もりのように
別れ支度(わかれじたく)をする妻と娘を
優しく照らす。


自由詩 日常の景色。 Copyright 梓ゆい 2015-05-12 09:42:24
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