あなたに終わらない五月を
たちばな まこと

新緑の木漏れ日
雨上がりの朝
ひとの気配を飲む森
まぐわうように
愛をからませて吐く息
命の匂いに満ち満ちて止まない
そんな五月のように私たちが求めて止まないころ
得ようとしていたもの
おさなごの声はつたなくて強い
おかあさんおかあさん
洗いたての肌をすり合わせて
ひとつだったことを思いながら
それぞれであることを喜ぶ

私が喪ったものを思うとき
あなたのこころが泣いてしまう
ぼくはもうあのひとそのもの
ぼくは帰ってきただけ
かける言葉を層にする
やさしいひとやさしいひと
強すぎるときも前を向きすぎるときも
それでいいよと層を重ねて
強いふりをする
もっと音にするといい
先生
強さをもらえなかったぼくが
壊れた家で生き抜いてきたこと
褒めてくれましたね
五月のように生きはじめたい
命を浴び
緑にまみれ
陽射しに泳ぐ夏のいきものとして
こころに夏の思い出を住まわせて

五月のそよ風をゼリーにと詩った詩人
その詩人をリスペクトした詩人
その詩人と共に生きる詩人
その詩人と血を混ぜる詩人
やさしい詩人よ
あのひとにならなくていい
あなたに
終わらない五月を






自由詩 あなたに終わらない五月を Copyright たちばな まこと 2015-05-11 08:34:50
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