貝殻骨
佐々宝砂

水滴を鏡に落とし異世界の虜となりぬその未亡人

遺伝子の螺旋ドレスにして踊る女の口はひたすらに赤

水銀のぎらりを飲んでみせるからわたしと一緒に歩いて下さい

丸ボタンひきちぎっても血は出ない喉頸噛んでおねがいあなた

朝の雨血汐も泥も腸も洗ひ流さずやはらかに降る

赤マント広げナイフを振り上げる通り魔の顔懐かしきかな

眠り込む二十秒前むずがゆい貝殻骨に手が届かない

あのひとの貝殻骨は青空を羽ばたくためにあると思った

洞窟に生まれ洞窟に死ぬ虫のしかし羽ばたくことのみは知る 



短歌 貝殻骨 Copyright 佐々宝砂 2005-02-09 02:15:00
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