夜と重なり
木立 悟






視線の爪を切りながら
空を横切るむらさきの溝
曇にも屋根にも放たれる
音より遅い花火たちの粉


うつろな器の重さに驚き
なかのものをこぼしてしまう
姿の無い痺れを
こぼしてしまう


腹に生えた羽
厚塗りの景色
午後は猫を抱く
雨をゆく鏡


鬼の息が
水たまりの底を晒す
指のあいだから漏れる光が
夜の方位の顔をなぞる


多重の夢の
小さな生
つらなり つらなり
見えなくなる径
常に行方を
呼吸する径


窓の数だけ蜘蛛が居て
硝子の傷を舐め取っている
ぽたぽたと散る夜を
舐め取っている


蒼 銀 灰 黒
なだめる過程
削り取られた音の粉を
雨の上で震わせる夜


夢はすべてほんとうであり
忘れることも分けることもできない
だからこそ忘れ だからこそ分け
ひとつのほんとうを選びつづける


目と目のあいだに何かがあり
小指の外側にも何かがある
常にそれらを忘れながら忘れず
重なる響きを重ねつづける






























自由詩 夜と重なり Copyright 木立 悟 2015-05-07 20:13:42
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