あなたが明日も日本語を読めますように
竹森

ついつい、
人を殺したくなるので、
伸ばした黒髪で、
十本の指を縛りつけ、

あの街角には、森の声、
花の咲かない街では、
ささやかな、比喩を分け合う、
蝶々たちの、いじらしさ

ポスターを剥がすな、それは、
あなたを、あなたたらしめている、
皮膚を覆う、皮膚。
そのすぐ後ろには、夜空の星のように、
それぞれが、割り振られた、番号ではなく、
血の器には満たされないで、自らが器となる、潰れた眼球。
(指輪をはめるよりも、肌を打ち、かつ、染み入らない雨。
(ああ、これが、ルビを振られる、感触、なのでしょうね。

人間は、
幽霊の肌の青色に、
黒人の、
忌まわしい歴史、

マルテが優雅な物腰でティーカップに触れる、
その手つきが、誰かに何かの合図を意味して、合図としての、
ウェイターとの、密会の約束、そして、破棄、
ティーカップに、触れて、離して、そして、戯曲のペンを取る、

それは、何かの合図を意味しない、
ので、一本の脚をひきずって、畑には、
牛乳を撒きに行く、独り身の農夫、
ティーカップが、卓上に敷く、青く、淡い影、





(爪が、ピンクの、花びら、となり、
(風に、剥がされ、舞い散って、いった、
(指先の、その、先へ、と、
(ああ、それは、
(優しい自殺の、はじまり、だったのでした。





燃えなければ、
エタノールにもなる海、
火がなければ、
自らが燃え盛る海、

人体は、分裂する、
血だまりに林檎を、一つ残して、
(3ばかりを、捜す靴下)
1と1を足した1は、4となり、
1と1を足した2は、2のまま、

人々の、視線を聴く、
耳には、草の葉が詰められている、
(天使の数を数えよう、)
崩壊の予感は、
崩壊の後に、訪れる、

巨人の右腕を運ぶ、数千の人間の腕、
まるで巨大なムカデが、地を這っている様だ、
その跡には、人間の頭部を、植えながら、
投身しても、死ななかった胎児が、それを喰らおうとする、

煙草の煙で、天使の衣を剥ぐ、
酒場の人々の、その目のぎらつき、
その笑い方、その拍手喝采、
何十年も使い回されてきたカレンダーの、
半透明な、二月のビブラート、

三回、死んだくらいから、
何回、生きた事があるのか、確信が持てない、
誰も見たことがない私の裸と、
誰も読みたいと思わない私のポエム、
美しいのは、どちら?

一人だけしか
赴かなかった戦場を
花畑にしようとするな
君に捧げる、と題してしまえば、
何一つ、産み落とされない、私の日本語、


自由詩 あなたが明日も日本語を読めますように Copyright 竹森 2015-04-30 07:58:07
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