アンテ


小さな町のはずれで
旅人は力つきて倒れ
そのまま動けなくなった
かれこれずっと
なにも食べておらず
水も一滴も飲んでいなかった
町の空気は乾いていて埃っぽく
川も干からびていたし
くすんだ色の葉をつけた木が
まばらに見えるだけだった
住民はしばらく
家の陰から様子をうかがっていたが
ばらばらと出てきて
旅人を足で突いたり
荷物の中身を探ったりした
旅人はかろうじて息をしていたが
ぴくりとも動かなかった
背負っていた大きな荷物には
ポケットがたくさんあって
開けると小さなかけらが転がり出た
集めてみると
かけらは勝手に組み合わさって
気味悪くうごめいたかと思うと
近くにいた住民を呑み込んで
大きく膨らみだした
住民は慌てて逃げ出し
家のなかから様子を伺ったが
それは気だるそうに移動して
近くにあった家を呑み込んで
さらに大きく膨らんだ
住民が避難して様子を伺っていると
それは次々と家を呑み込みながら
町を縦断して
端まで行き着くと動かなくなった
住民は旅人を叩き起こして水をのませ
意識がもどると
口々に罵りながら
なんとかするように迫った
旅人はぼんやりと
人々の顔を見比べていたが
つらそうに立ち上がって
荷物を引きずって町の反対側まで行った
それは山のように成長していて
不安定に揺れていたが
旅人を襲おうとはしなかった
旅人が手を伸ばして
尻尾のように見える部分に触れると
それは突然崩れて
家や町だったものが
原形もわからない状態で散らばった
旅人は長い時間をかけて
廃墟のなかからかけらを拾い集めて
ひとつひとつ
荷物のポケットにしまった
住民は恐る恐る近づいて
害がないことを確かめると
旅人を口々に罵って
町から追い出した
旅人は一本道をとぼとぼと歩いて
町から遠ざかり
埃っぽい風にまぎれて
やがて姿が見えなくなった
人々は瓦礫を取り囲んで
片付けをはじめるわけでもなく
今後のことを話し合うわけでもなく
旅人を呪ったり
自分の不幸を比べあったりしていたが
日が暮れると
一人 また一人と散っていった
そして不安そうに
それぞれの夜を迎えた






自由詩Copyright アンテ 2015-04-27 23:46:28
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