深い夜に
ヒヤシンス

 表通りに街灯は点る。
 閉め切られたシャッターの並びの中に誰かの忘れた人形が笑う。

 心の休息は遥か彼方に横たわっている。
 詩を歌えなくなった者は思い出の中に消えてゆく。

 垂れた前髪をかきあげると新しい世界が見える。
 両の手を眺めてみても何も生まれない。

 今日もまた夜は来る。
 誰かの悲しみが夜の街には溢れている。

 表通りに街灯は点る。
 汚れたキャンバスがあちらこちらに転がっている。

 誰かの言葉が心に突き刺さっている。
 抜こうとすると体中の血液が傷口に向かって逆流しようとする。

 笑っているはずの人形の口元が痛みで歪んでいる。
 私の知らない誰かの苦しみは決して私に見えるはずもない。

 今日もまた朝は来る。
 そうして私は一人いつもの祈りを繰り返す。


自由詩 深い夜に Copyright ヒヤシンス 2015-04-25 04:35:22
notebook Home