春を送る
藤原絵理子
花吹雪舞う道を ひとりで歩いた
分かれ道で手を振って きみは去った
あたしのことは すぐに忘れる
夏が来れば 陽の光に夢中になって
花びらは風にのって どこへともなく
青い月夜の川に 流れ去っていく
闇に浮かんで 揺れながら
能面の下の素顔は 篝火の爆ぜる音に怯える
心のいちばん柔らかいところを啄ばんで
見知らぬ鳥は 囀りながら飛び去った
春はゆるやかに 拒絶する
遠ざかっていくのは 悲しい記憶ではなく
喜びに踊る 木洩れ日の記憶 かすかに
さよならと呟く 蓮華草の広い野原に