傷跡は春に包まれて
竜野欠伸

真新しいパンプスを
履きながら歩く
晴れわたる春の路地裏
靴づれはひりひりとして
ドラッグストアに立ち寄る
店員へ傷跡に貼る
ばんそうこうを下さいと云う

    *

少し無愛想に
ぽいっと置かれた小箱の医薬品
要らないとは云えずに
かかとを痛みで尖らせながら
彼女はこころの奥から
痛いと叫ぶばかりで
ばんそうこうを
ふたつ分だけ貼る
途中のターミナル駅で
待ち合わせをするために

    *

百貨店のすぐ目の前で
靴問屋が国産靴はたくさん
在庫一掃市みたいに
セールをしている
ちょうどふたり分だけ
未来の足跡を
買い占めながら
鉄道の車窓からは
藤の花が咲いている
もう夕焼けは暖かくて

    *

今夜から彼女は
まるで庶務ができない僕の
先生になる予定がある
年上の伴侶へと
少しは事務仕事の腕を上げるようにと
家事にもよく似ている庶務について
教えを請いながら

    *

生徒になったばかりの僕は
先生の左足にある
痛みを丹念に手当をする
次々と先生が
求め続ける宿題
はらはらしながら
しっとりとして
うららかに
傷跡は春に包まれる


自由詩 傷跡は春に包まれて Copyright 竜野欠伸 2015-04-22 04:23:06
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彼女に捧げる愛と感謝の詩集