真夏の家族。
梓ゆい
幾何学カットされた放射状のライトセーバー。
グラスに注いだ水はきらきらと反射をして
虹のアーチを作る。
日の光を全身に取り込んだグラスは
魂の輝きを映し出すかのように
手にする者を無言の感動へと導くのだろう。
(ゆらりと弧を描く、グラスの中の水。)
色濃く浮かんだ虹を
鮮明に映し出す。
同時刻
ふすまの向こう側では
4人の女達が川の字になって昼寝をしている。
夏の午後
静かなひと時の中
家々を通る風に涼みながら。
「もうすぐ父が帰ってきます。祖父母と共に馬に乗って。
もうすぐ父が帰ってきます。「かわいい。かわいい。」と抱きしめ・頭を撫でた娘たちの元に。」
時刻は午後18;00
迎え火と線香が
例年よりも強く/明るく燃え上がる。
「何故、声が聞こえないのか?
何故、姿を見ることが出来ないのか?」
誰にも言えぬ疑問を飲み込んだ瞬間
耳元で微かなつぶやきが返答をした。
「それは、あなたが生きているからだよ。」
忘れないで欲しい/忘れていって欲しいと言う半々の望みは
死者の葛藤にもみえる。
(お父さん。お父さん。)
手書きの筆跡は、ここに残されていた。
食べかけの板チョコが、戸棚の奥にあった。
組み立てたカラーボックスはここにあって
それを作った人はもうどこにも居ない。
水は蒸発して
そこにはただ光を失ったグラスが置いてあるだけ。
(手を合わせましょう。ここに居ることを信じて。
話し掛けましょう。伝わることを願って。)
今は泣いている娘たちも
いつかはまた笑い出す日が来るのだろう。
新しい家族の下
小さな子供たちと
父の墓前に手を合わせながら。