たいこともべきこともなくていい
ただのみきや

しゃぼん玉のような瞳を漂う
異形のチューリップ
コクトーの詩がめらめらと
記憶から皮膚を炙る 匂い
生まれたての羞恥心に注ぐ
冷たい炎のバプティズム
春を纏ったものたちは戸惑う
羽化した蝶が雹に迎えられるように
願いの 祈りの 息絶える蒼い
灰を描く 視線は 深い断層から
白いシャツ 腕をまくる 
黄ばんだ笑顔の切れ端

わたしは倒れたいっぱいの屑籠
美しいパラドックスに恋をする

子供の嗚咽が滴り続ける真夜中
額の裏でカラスに啄まれながら逃げ惑う
あの鳩の変わらない目 ただそれだけで
意は散り 散り逝く
心の蒸発 手品師のシルクハットから
さえずるねゐろだけが
白昼へ転落した
――これは何の雛だろう?
呪いも祝いもしない息苦しさ蜜の味
やわらかな棘で覆われて
手の中で息絶えた
詩情がぬらりと目を開ける
背中で獣の声がする


    
       《たいこともべきこともなくていい:2015年4月18日》








自由詩 たいこともべきこともなくていい Copyright ただのみきや 2015-04-18 20:09:16
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