お父さんが死んだ日。
梓ゆい
お父さんが死んだ日
いつもより輝いてみえた北斗七星。
お父さんが死んだ日
いつもより白く見えた庭の雪。
お父さんが死んだ日
いつもより寒く感じた六畳の客間。
寝ていたはずの猫は素足にまとわり付き
泥が付いたままの長靴の横でうずくまる。
放心状態の私は布団を敷き
真新しいシーツを丁寧に重ねた。
ストーブを付ける。
お茶を淹れる。
車の通り道の雪かきをする。
玄関を掃除して
靴下を履いて
テレビをつけたまま
帰りを待つ。
持ち主が居るはずの
携帯に電話をする。
黙って切る。
「おかえり。」といいたくて
玄関でうずくまる。
星だけが明るい夜空。
隣の家の明かりも見えない
半径一km以内の部落。
お父さんが死んだ日
いつもより綺麗にした玄関と広い廊下。
「フリースのマフラーからは、ほんの微かに匂いがした・・・・。」