にくしみ(要冷蔵)
竹森

彼女はあばずれの子
僕は納豆の子
という事にして竹森は歯
を、一本ずつ抜いていった。
まずは僕の歯を
それから彼女の歯を
植え替えては抜いて
抜いては刺し
刺し替えては押し込んで
はゆっくり
と押し込んでは真っ直ぐ
に抜きかけては一気にもしくは一度に笑いながら悲しみながら泣きながら鳴きながら喘ぎながら
押し込んで
は抜く
と見せかけて
押し込んだ

悲鳴にも種類はあったが
それは最初だけであった
やがて悲鳴はモノフォニーを描き
悲鳴、僕らの顔や表情、体型、食べ物の好み体臭もしくは口臭までもが、段々と似ていった
(どの歯がどちらの歯か、案外見分けはつくものではあり続けながら)
君は憎しみを抱き、少し膨らんだ胸をその紙ヤスリみたいな唇に当てて、喘ぎなから母乳を与えていた。白目を剥いていた、のは僕も同じだった。
竹森は僕は君はナナは「いつまでも人を憎み続ける」と、声を上げず唇の形だけを変え続けた。
暖炉の灰をかき集めて木目のテーブルに小さな山を作った。白目を切り取って半球をその隣に並べた。電球も切り取ろうとしたが、手を切ってしまった。誰の手が切れたのか、誰も判別は出来なかった。誰の白目を切り取ったのかも、もう誰も視覚する事は出来なかった。拷問室には巨人の子宮だけがあって、僕はそこに何度も顔を突っ込まされては抜き出された。その度僕は新しく産まれておりそれは素晴らしい事なのだと教え諭さられた(その度僕は嬉しくて頬がゆるんだ、ゆるんだのは決して頬の肉が腐ったからではなく)。
巨人の子宮は腐卵臭がした。子宮が腐っているのか、そういう臭いがするものなのか、巨人の子宮はそれしか知らなかったし、そもそも人間の女のあそこの臭いも嗅いだ事がなかった。
女はそのとなりで自分の爪を剥いではショートケーキのホールの側面に貼り付けていた。爪は半周分程ケーキの側面を埋めていた。とうに腐ったケーキの側面を。

彼女と竹森は交尾もせずに子を産んだ
彼女は膣から長いへその緒を垂らし、コンクリの床に赤子を引きずりながらテディベアの人形をギュッと抱き締めた(人形からは納豆の臭いがした)。赤子はへその緒の先端に実った蕾のようだった。竹森は赤子を掴み、腹を裂いてみた。中に花びらのようなものは詰まっていなかったので、内臓を取り出し、代わりに髪を燃やした跡の灰がまばらにかかった乾いた花びらを詰められるだけ詰めた(薔薇の花びらだったと思う)。それから赤子を冷蔵庫に入れた(冷蔵庫に入れた方が日持ちする事を知っていたのだ)。冷蔵庫を閉じる時、へその緒が扉に挟まりナナは痛みを覚えた。僕は彼女がへその緒が挟まるだけで痛みを覚えるのにその先端に膨らむ赤子の腹を切り裂いても痛みを覚えない事を不思議だと思った(花弁は茎に痛みなく咲き開く。そんな当たり前の事を)。


自由詩 にくしみ(要冷蔵) Copyright 竹森 2015-04-11 23:55:41
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