七つの闇
宣井龍人

【夜景】
月明かりが柔らかに肩を撫で
こんな夜は振り返ると良い

視界と記憶を超えて
永遠の束縛にうごめき
点々と小さく弱々しく
くっきりと何処までも続くのは

あれは夜光虫ではない


【疲れた男】
いただきます!
そして他愛ない笑い声

男は
響き渡る声を
何処か遠く感じた

ドア先に広がる温もり
男には無縁だ

誰が待つわけもない部屋
ぼんやり見つめる一枚の写真
やがて男は体を休めた

水道は眠らない
ポトリポトリと水滴が呟く

夢で逢おうよ


【とある事故】
目に入れた息子は去り
悲しむ間もなく罪人に
意思の無い車の啜り泣き
陽の昇らぬ空に凍える


【宝物】
子供たちが無邪気に穴を掘っている
顔も手も服もどろんこでくしゃくしゃだ
穴に人形やミニカーをそっと置く

どろんこは不思議な扉だ
子供たちは宝物を閉まっていく
いなくなったお祖父ちゃんたちも一緒らしい

どろんこには眩いカーテンがかけられる
いっぱいの笑顔は満開の花びらだった


【悲しみ】
闇が闇であるうちはまだ良い
闇であることさえ数えられない時
私は居るところが無いのだ

もう一輪の花を飾ることは出来ない


【終わり?始まり?それとも続き?】
おかえりい
おかえりいぃ

仄かに声に辿り着く

目覚めたかい?
もうすぐだよお

暗闇をガタガタ震わせる

それえ〜!

天と地がひっくり返り
焼かれた棒や破片たち
ほっぽり出される

コロコロコロ
僕の体はどこだろう?

おかえりい
おかえりいぃ


【もう会えない】
死別

よそよそしいこの言葉はとても無口なのだ
溢れかえっていた感情を連れ去ってしまう

訪れる春の陽射しを身体中に浴びながら
あらゆるお前は崩れ去り無に帰していった

私はというと

私はたちまちのっぺらぼうになった
ただただ唯一の無色が見えている

今年も桜の季節がやって来た



自由詩 七つの闇 Copyright 宣井龍人 2015-04-11 16:44:11
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