彼女の午睡
りゅうのあくび

低い雲がたなびく
雨空のなかで生まれたばかりの冬猫が
ふんわりと尻尾をまるめながら
きっとこの春のどこかで
ゆったりと昼寝をしているように
彼女はまだ目覚めない

もう夢のなかでは
序曲の演奏が始まる
まるで音符は楽譜から
巣立つときに鳥の翼が
はばたいているみたいにして
時を刻んでリズムが響く
フィギュアスケートで
トリプルアクセルを
何回か決めながら
ロンドを踊る

彼女は冬に生まれたのだけれど
陽射しが暖かな
命になったばかりの
初めての春を
思い出すみたいにして
スケートリンクのなかで廻りながら
アイスブーツのエッジを
効かせて回転する
きっと夢をみることにも
地球の重力が鋭くかかっている

まるで手紙の返事を
そっと待つときのように
部屋の遠い静寂とは
彼女の深い寝息になっていて
心臓の鼓動とともに
踊り続ける血液は身体じゅうを巡りながら
ぱっちりとまばたきをして
冷めた珈琲を飲みながら
やっと午睡は終わって彼女は
スリッパを履き始める


自由詩 彼女の午睡 Copyright りゅうのあくび 2015-04-10 15:42:27
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彼女に捧げる愛と感謝の詩集