ジジイ殺害の甘い瞬間
花形新次

酒に酔ったジジイが
タクシー待ちの列に
割り込んできて
俺の前に並んでいた
熟年夫婦より先に
乗り込もうとした
「おい、何をしてんだてめえ!ちゃんと並べよ!」
俺が穏やかに言うと
ジジイは振り返り
「なんだあ、生意気言いやがって」と向かって来た
俺は内心チャンスだと思った
長年の夢だったジジイ殺害が今可能になる
左拳に力を込めたとき
熟年夫婦の旦那の方が間に入って来た
「まあ、まあ、老人は酔っていることだし
私達が列の最後に回りますから」
と俺に言った
「・・・そう言うのであれば、僕は別に構いません」
残念さを噛み殺して俺は答えた
「但し、後ろには僕が行きます」
熟年夫婦の旦那にばかり
格好良い真似はさせられなかった

「ふん、行ってくれ!」
いつの間にかジジイは
タクシーに乗って
運転手に向かって叫んでいた

「あなたはまだ若いんだから
こんなことで人生無駄にしちゃダメよ」
熟年夫婦の奥さんが
俺の魂胆を見透かしたかのように言った

くそっ、ジジイ、おまえの顔は覚えたからな
待っていろ、ジジイ


自由詩 ジジイ殺害の甘い瞬間 Copyright 花形新次 2015-04-08 16:12:16
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