放送所の子供達は今
岸かの子2

塾なんて無かった頃
塾なんて行く人もいなかった頃
赤い鐘が鳴っても誰も帰らない
          誰も誰も
年上のあたしとY君はいつも考えてる
どうやればみんなが連れてくる
三才や幼稚園のチビ達も一緒に
野球をやんのか
ドッジボールやんのかって
妹、弟 みんなごちゃまぜ
文化住宅の大人たちは共稼ぎばかり
小さい子
大きい子
小さい子がバットに当てる
それは、捕っちゃいけない
必ずファーストまで歩かせる
何回空振ってもアウトなんかしない
何回当たってもドッジボールは
      死なないでいい。
そんなちいさなルールが大切だったころ。

赤い鐘が鳴り響く
ドボルザークが歌いだす
紅と白の放送塔の下はいい公園
 
放送所の公園で育った子は今
昔のルールを覚えているだろうか
Y君と作った楽しいルールは
誰か覚えているだろうか
覚えていたら
赤い鐘がなる前にちゃんと
ちゃんと、教えてくれているだろうか

転校する直前にY君は
「どうしてはなしてくれなかったんだよ」と
半泣きだった ごめんね、と
返すしかなかったもの

赤い鐘が鳴ってしまったんだもん
赤い鐘がもう、おしまいだよって
私の所に来てしまったんだもの

放送所の赤い鐘は今
ただのグラウンドになってます
立ち入り禁止のグラウンド
誰も遊べない意味も何もない
ただのグラウンド

晩御飯の声が聞こえてきたよ、ほら
お家にかえろう
お風呂に入って
美味しいごはん食べましょう

赤い鐘がなる前に、ね。


自由詩 放送所の子供達は今 Copyright 岸かの子2 2015-04-07 15:52:03
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