花吹雪。
梓ゆい

返事の無い玄関先。

「ただいま。」と言って

父の姿を待つ。

去年の今頃は/一ヶ月前までは

奥のリビングから父の歩く気配がした。

今は私から靴を脱ぎ

畳部屋の父の祭壇に

「ただいま。」と声をかける・・・・。

「お帰り。遠いのに悪かったねえ。」

いつもと同じように頭を撫でられたようで

火をつけた線香を2本立て

小さな金平糖の袋を一つ

真ん中に置く。

「裏の桜が、5分咲きになったよ・・・・。」

父と見上げた満開の御神木

すぐ近くの団子屋で今年からは4本の注文を取る。

花びらをさらう突風が

「美味しそうだ。」と話し掛ける父のような気がして

「今年は、みたらしにしたよ・・・・。」と

心の中で返事を返す。

「どれ、ひとつ頂戴よ。」

串のうえの団子をひとつ手に取り

春の風に乗りながら

ほくほく顔でほおばった。





自由詩 花吹雪。 Copyright 梓ゆい 2015-03-31 04:28:57
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