乾杯の音頭
nemaru

「花見、くる?」日取りが決まってから、もう一度きかれるだろう。 そのときに「行きたいけど、人が多いのが苦手で、どうしようか迷っている」と、正直に言おうか、迷っている。 「そんなのあなたが勝手に決めればいいでしょ」「行きたいなら行ったほうがいい」「後悔するぜ」ルーレットが止まらない。

「ぼくが行くと酒がまずくなりませんか」「ポテチがしけりませんか」「ポッキーのチョコともつとこの割合が逆になりませんか」「なんか、ぼくが行くと、よくないような気がして…」と言ったら、笑われるだろうか。引かれるだろうか。 自分のおもしろさの程度が、わからない。 どこまでリアル悩みを開示していいのかもわからない。 困っていて、自分でどうにもならないなら、打ち明けるのがいいのかもしれない。 誰もそんな風に悩みを解決しているようには見えない。 自分はとてつもなく弱いのかもしれない。 人に弱みを話して、理解され続けなければ、生きていけないくらい弱いのかもしれない。

自分が楽しそうと思っても、自分がちゃんとその場を楽しくできるか分からない。 自分次第で場がどうこうできるという考えがあつかましいともいえる。 行くと場がしらけたり、異物感があるような気がしたり、人に気を遣わせそうで、不安になる。 じゃあそうならないようにしろ、と言われると、わざとらしくならないか不安になる。 自分はどういう役割を努めればいいのか、いまだにわからない。

花見で、乾杯の前の音頭をとらされたら、なんて言おうと思う。

「花見に呼ばれたりするのは初めてで、自分みたいなのが行くと酒がまずくなるんじゃないかとか、ポテチがしけったりするんじゃないかとか、今も不安なんですけど、いつも自分がいるとよくない事が起こると思ってます。ぼくがバイトに入ってから、いきなり生産の規模が縮小されたりして、それも自分のせいじゃないかと思いました。求人誌にも丁寧に指導しますとか書いてあるはずなのに、誰にも何一つ教えていないです。こんなダメなやつが最古参でいるということが、ひじょうに申し訳ないです。ちょっとずつなんとかしていきたいと思ってます。みんなと親睦というか、しゃべりたいというのはいつも思ってますし、不安も感じてます。もうねまるさんは何を考えているのかわからないとか、あなたとは何を話せばいいのかわからない、と言ってもらっても大丈夫です。注文をつけてくれても構わないです。変わっていこうと思っているので、遠慮なく茶髪にしろとか、顔をあげろとか、もうなんでもアドバイスしてください。バイトごときでここまで重たく考えていることも申し訳ない気がしますが、基本的には仲良くしたいと思っているのにどうしたらいいかまったくわからないという人間なので、こういう機会にずずずいっと言っとかないと、永久に自分がこういう心情でいるということが、わかってもらえないし、一期一会なのに、このまましゃべらないままいつかバイトを辞めていってしまって後悔するのも嫌なので、今話そうと思いました。前に山崎さんにボーリングに誘われたんですが、そのときはボールを投げたあと、振り返れないような気がして断りました。人の顔を見たり、人の顔が視界に入るのが怖くて、朝礼なんかでも後ろのほうでうつむいているのは、そういう事です。基本的には挙動不審なのは顔を見ないためで、だいたい説明がつきます。ほんとにダメなやつですが、これからもよろしくお願いします。ありがとうございます。もうちょっと頼りになるように、自信もって生きようと思います。では、かんぱーい!」

重すぎるし個人的すぎる。 いつかはこの中の話を分割して、伝えていければいいのかもしれない。


自由詩 乾杯の音頭 Copyright nemaru 2015-03-30 22:56:09
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