軌跡の後。
梓ゆい

奇跡が起こる瞬間を描いて

苦しい毎日を過ごしていたのに

一番の奇跡は

母と娘たちが引き起こしていた。

数年と言われていた父の寿命は

2倍の10年目を数えた後

一つの節目を迎えて

雪が溶け出すのを待ちながら

たった一人で何処かへと行った・・・・。

(空には北斗七星が輝いて、父の帰りを待つ娘を見つめている。)

付いて行きたいと願う。

「世界はみんな、真っ暗闇。」だと

言い出す前に・・・・。

昼食べたもの。

おかゆ茶碗半分・ヨーグルト一個

「ずっと咳き込んでいたよ・・・・。」

母と娘のメールは

三通のやり取りの後ぷつりと途絶え

付き添って眠る傍らでは

呼吸の代わりに電子音が聞こえてくる・・・・。

(その音は、静かな問いかけにも似ていた。)

少しずつ組み立てられたもろい物質

残ったもの/残したかったものは何だったのか?を

必死に考えた待合室。

「お父さんを、返してください・・・・。」と泣き殺した帰り道

ファミリーワゴンの座席に

着替えとニット帽を畳んで置いた。


自由詩 軌跡の後。 Copyright 梓ゆい 2015-03-30 22:46:09
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