軌跡の後。
梓ゆい
奇跡が起こる瞬間を描いて
苦しい毎日を過ごしていたのに
一番の奇跡は
母と娘たちが引き起こしていた。
数年と言われていた父の寿命は
2倍の10年目を数えた後
一つの節目を迎えて
雪が溶け出すのを待ちながら
たった一人で何処かへと行った・・・・。
(空には北斗七星が輝いて、父の帰りを待つ娘を見つめている。)
付いて行きたいと願う。
「世界はみんな、真っ暗闇。」だと
言い出す前に・・・・。
昼食べたもの。
おかゆ茶碗半分・ヨーグルト一個
「ずっと咳き込んでいたよ・・・・。」
母と娘のメールは
三通のやり取りの後ぷつりと途絶え
付き添って眠る傍らでは
呼吸の代わりに電子音が聞こえてくる・・・・。
(その音は、静かな問いかけにも似ていた。)
少しずつ組み立てられたもろい物質
残ったもの/残したかったものは何だったのか?を
必死に考えた待合室。
「お父さんを、返してください・・・・。」と泣き殺した帰り道
ファミリーワゴンの座席に
着替えとニット帽を畳んで置いた。