春の航海
nonya


華々しく出航したはずの
船の羅針盤は
いつの間にか壊れて

勿体つけて差し出された
六つ折の海図は
ほとんどが嘘っぱちで

最初は威勢が良かった
スクリューには
得体の知れないものが
幾重にも巻きついて

今日も昨日も明日も
義理と人情と夢のままに
空と海のあてどない狭間で
未来に船首を向けるふりをする

自由と勝手をはき違えたのは
何処の港だっただろう
難しい言葉で得意気に交信したのは
誰の船だっただろう

目的地など無いということを
彷徨うことが航海だということを
思い知ったのは最近だった

同じような波に弄ばれて
同じような島に縋りついて
何度も塩辛い水を飲まされた
迂闊な航海士に
それでも季節は何度も巡った

今年も途方に暮れた背中に
春が降り注ぐ
凍えていた素っ気ない指先に
血潮が満ちていく

はしゃぐ光に
ことさら顔をしかめながら
お節介な温もりに
大袈裟な溜息をつきながら
ついうっかり
何かを始めようとしてしまう

そんな迂闊な

春の航海




自由詩 春の航海 Copyright nonya 2015-03-29 20:20:15
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