chikara。
梓ゆい

父の好きだった物を食べると
思い出す事が多すぎて
(もう二度と食べない。)と
自ら放棄した。

熱々のラーメン。
つやつや光る大皿の刺身。
カラフルなマーブルチョコレート。
一息ついでに淹れるコーヒー。

どれもこれも変わらずにあり続けているのに
それらをほおばる父が居ないだけで

私は「食べること自体、忘れさせて欲しい。」と
黙って水を飲む。

伏せたままの茶碗。
欠けてそのままの湯飲み。

父の持ち物がまた一つ
「いいから食べなさい。」と
娘に箸を握らせる。





自由詩 chikara。 Copyright 梓ゆい 2015-03-27 22:55:22
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