北限の海女(岩手県久慈市)〜その瞳をみていたら〜より
黒木アン
「おみゃー
汽車からのお客さんに
ウニっこのしょうゆさ
だせばいかったのに」
「あんやー
そんだな
わりいことしたな
しっかし今日の海はひゃっこいな
おぼっこ(赤ん坊)の
しめし(おしめ)みたいだべ」
そんな声が
聞こえてきそうな
琥珀の町は久慈
絶景の海岸美に
天然の幸に
囲まれました
素朴な人の手は
あたたかく
「気いつけて帰れよ」
と旅の最後を
残してくれます
明ければ
また男たちは
気嵐の中出漁し
船団が先を争って
でていく久慈港
火の穂に手をかざす
気立てのいい女に
みおくられ
灯台に見守られ
無駄口は利かず
サケの大漁に
沫雪は日に溶けていく
番屋からみえる
白い煙は
くわえた煙草と
白い息
冬天の
ほのひかる海に
ウミネコの原を
見渡しながら
まっているのは
小女子茹でと
あかまんまを
たゆむたのしみ
襖をひいて
羽織をだして
土間にいる
母ちゃんの肩に
ひっかけてやりました
南部鉄器の音がついた
釣り忍ぶが
吊るされるころ
小袖の海女が
また
もぐりはじめるのです