純粋痴態
ただのみきや

痴態は演じられるものではなく
晒してしまうもの
ネズミを焼く匂い
霞の向こう兜を脱いだ少年の
老いを孕む眼差し
生を一巡りしたかのよう
遺灰を踏み しめる
空を模した青磁器/亀裂の風
ゐっこだけ
残してしまう幼い弟を抱くように
首 ゐっこだけ
盗んだものだから盗まれるのが怖い
木々を巡り追いかける玩具の声に
純粋無垢な
ゐっこの痴態 生臭い蕾
首 ゐっこだけ
捨てられない音魚 呂律の弛緩
蜜に絡む舌は内へ内へ地下茎となる
土に埋れたサイダーの壜
引き抜けば半身は失われた記憶
期待しないでいて
そう言って世界は
寂しげに目を合わせようとしなかった今も
死者だけが存分に話し相手
少年を脱いだ少年の
胸が肋骨が爆ぜるように咲いて
巣立って往く 語尾に紅い澪引く鳥よ
透明な呼名の囀りが感覚からほどけて
――ナニヲワスレタノカ
    モウ オボエテイナイ
混濁しない涙は魂の外殻を侵食し
穿たれた穴から触手は探し続ける密やかに
白い模倣の覆い布
可視不可視多重構造四角い箱を彷徨って
――アアぅうああァぁぁぁメクれるよオゥゥぉぉ
痴態は演じられるものではなく
――イイイアァぁぁうおオぅぅネジれるよォォゥ
晒してしまうもの
純真無垢な
ゐっこの
――何か
生と死が交じり合う腐葉土の見る夢のような
失くした『 』の記憶
ふと
遠く電車のように



             《純粋痴態:2015年3月22日》








自由詩 純粋痴態 Copyright ただのみきや 2015-03-25 19:01:02
notebook Home 戻る