ヨシノさん
nonya


ヨシノさんは江戸末期の
北豊島郡染井村で生まれた

生まれながらにして容姿端麗
娘盛りには五枚の花弁を振り撒いて
道行く人を虜にした

染井村のヨシノさんを
なんとしても手に入れたい
新しもの好きの江戸っ子は
いっそのことヨシノさんの
クローンを作ってやろうと企んだ

かくして
ヨシノさんそっくりの
クローンなヨシノさんは
次々と作りだされ

やがて
日本の春の津々浦々で
クローンなヨシノさん達の
可憐な立ち姿を
見かけるようになった

南から北へ
約束を果たすように

土手の上に一列に並んで
校庭の端に静かに佇んで
ビルの谷底で踏ん張って
里山の霞んだ空を仰いで

川面に無常を浮かべて
出会いと別れを縁取って
コンクリートを上気させて
薄紅色の風の音符になって

人のときめきとぬくもりで作られた
クローンなヨシノさん達は
人の喜びを
うららかに微笑み
人の哀しみに
やわらかく寄り添う

今日のさくら公園の
クローンなヨシノさんは
奥床しい三分咲きだけれど

彼女のおちゃめなDNAは
少し目を離した隙に
満開になってやろうと
目論んでいるんだろうな




自由詩 ヨシノさん Copyright nonya 2015-03-25 18:58:48
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