病Ⅰ
白砂一樹

氷の光 瞬く 水銀燈が凍っている 凍てつく波動がそうさせたのか?
通常の認識過程ではない それを私が知らないにしてもそれはそうなのだ 「暗闇坂」はもう暗くはないにしても そうなのだ

氷塊の光輝 輝く 瓦斯燈が叫んでいる 難破人の叫喚がそうさせたのか?
尋常の理ではない それを私が知悉していないにしてもそれはそうなのだ 「非望風」が吹き荒れているからそうなのだ

沈黙の時を迎えた 送迎バスはもう来ない 俺は「バスに乗り遅れ」た
だから俺は夢の階段を昇ってゆこうとする それが俺を死滅させるかも知れぬとしてもだ

外套の衿を立てることもなく 街頭を俺は彷徨う もうふらふらになってしまって 先は見えず 地平線の向こうに虹は見えず ギリシアから吹く風が俺を朦朧とさせ 窒息させ 時間の観念を亡くさせる

奇妙な本体がやって来る それは急襲だ 防衛体制がまだ整っていないうちに 何たることだろうか! 第二種戦闘配置が受け継がれず 私は私の受け皿を血眼になって探している

計算はしていなかった 想定は初めからなかったのだ 病が時を刻んでゆくのを為す術もなく見守っているしかなかった 丘の上 風のない丘に私は育った 風の吹かない風の谷と言ってもいいだろう

4月1日に祖父は亡くなった 嘘じゃない

「経験値」が貯まらない

貯金がない

私の張り巡らせる情報網は貧弱である 私は堕胎させられた生を生きている 


そんなことは ないにしても そうなのだ


自由詩 病Ⅰ Copyright 白砂一樹 2015-03-24 18:47:28
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