賽の河原
イナエ

女は二人目の子どもを男の手に渡すと
彼岸に渡った子を追ってすーっと消えた
こちらに残した子は 
父も祖父母も伯母もいて
大勢の大人に囲まれて
春も夏も秋もあって
冬も暖かい部屋
十分な食べ物や 
そのときどきのゲームに興じて 
大切にされるに違いない

 賽の河原は 明るいはずも無く
 単調に 石を積むゲームのみ
 遊び相手の人形も
 縫いぐるみもなく 
鉄棒を振り回し
 積み上げた石の塔を壊すのは
 鬼か 現象か
 
 小さな手で積み上げた 
 石の塔が倒れる音は
 報われない悲しみの泣き声

此岸の男は
鬼の現象が家をこわし 
人をつぶし 
塔を倒して 
暴れる姿に子を思う

女よ
此岸から浚われた子の背に手を回し
一つ積んでは父のため

男よ
冬の風の中で破壊された鉄塔を組み立て
夏の陽射しに焼かれて石垣を築き
独り立ちする子を見やり 行く末を思いやり
一つ積んでは孫のため


自由詩 賽の河原 Copyright イナエ 2015-03-23 09:55:19
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