アコーディオンの旅
灰泥軽茶

私は十年ほど前に
リサイクルショップのビラ配りをしていた
すぐやめてしまったけれど
一軒のポストで
お爺さんに呼びとめられて
昔学生時代に何十万もしたというイタリア製の
壊れたアコーディオンを
あんたの言い値でいいからと五千円で買わされた

アコーディオンはへこへこ言いながら
長閑な町のふさふさの草と風の音
人や動物がこつこつ歩く音
自動車や列車がことこと走る音が
緩やかな時間と共に聴こえた気がした

私はそれを楽器屋に持っていき
アコーディオン専門修理業者の住所を聞き
遠く電車に乗り継ぎ持っていき
結局六万で修理したが
ときおり音を出すだけだった

そして十年たって
ようやく弾いてくれる方に巡り逢い
イタリアのアドリア海近くの小さな町で作られた
真っ赤なアコーディオンを手渡した
これでアコーディオンもまた
音楽を物語を奏でらることだろう



自由詩 アコーディオンの旅 Copyright 灰泥軽茶 2015-03-19 22:24:37
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