アコーディオンの旅
灰泥軽茶
私は十年ほど前に
リサイクルショップのビラ配りをしていた
すぐやめてしまったけれど
一軒のポストで
お爺さんに呼びとめられて
昔学生時代に何十万もしたというイタリア製の
壊れたアコーディオンを
あんたの言い値でいいからと五千円で買わされた
アコーディオンはへこへこ言いながら
長閑な町のふさふさの草と風の音
人や動物がこつこつ歩く音
自動車や列車がことこと走る音が
緩やかな時間と共に聴こえた気がした
私はそれを楽器屋に持っていき
アコーディオン専門修理業者の住所を聞き
遠く電車に乗り継ぎ持っていき
結局六万で修理したが
ときおり音を出すだけだった
そして十年たって
ようやく弾いてくれる方に巡り逢い
イタリアのアドリア海近くの小さな町で作られた
真っ赤なアコーディオンを手渡した
これでアコーディオンもまた
音楽を物語を奏でらることだろう