原風景
nonya
妄想と暴走の果てにある
方眼紙の平野には
フタコブラクダの形をした山が
文鎮がわりに置いてあった
緑の色鉛筆で
マス目を乱暴に塗り潰すと
山を駆け下りてきた風が
それを青田の漣に変えていった
青の色鉛筆で
マス目に沿って用水路を描くと
力を入れ過ぎて折れた芯が
幼い僕のように転げ回った
白の色鉛筆で
母親の似顔絵を何度もなぞったのは
もちろん祖母には内緒だった
Y軸をマイナス方向に伸ばした先に
母親の方眼紙はあると聞いた
橙の色鉛筆で
余白に悪戯書きをしていたら
鬼ごっこはいつの間にか終わっていた
コンパスで円を描くように
逃げ回る君を僕はまだ追いかけていた
赤の色鉛筆で
微かな傷跡を辿っているうちに
方眼紙の端から転がり落ちた僕は
まだ鬼のまま今日を彷徨っている
黒の色鉛筆で
ひとつずつ夢をぼかしながら
自分の物心が生まれた方眼紙に
しきりと帰りたがっている