やわらくて、むちゃくちゃにかなしい、ぼうりょくてきな、ミュージアム
竜門勇気

届かなかった気持ち博物館
薄暗い廊下を歩いたつきあたり
そこだけ妙に明るい受付で
2、3質問を受ける
ポケットの中の黒くて悲しい物を渡したら
重そうでやけに軽いドアを開けて
誰もいないリビングルームで
くつろぎながら絶望と手をつなぐ

額の代わりに
錆びたアルミサッシに囲まれた絵を見る
あの日見た夢を思いながら
昨日流した涙を見る
まるで
まるで
まるで思い出したみたいな顔をして

彫刻は面影で出来ていて
面影を僕は持ちあわせていない
形のあるものを探してきたけど
自分だけの幸せを探してきたけど
それが本当に欲しかったものだったなんて
おもえもしないし誇りもできない
白い石膏のように顔を歪める
でも
それでも
必死だったんだ
あの時本当に必要だったんだ
要るって思ってたんだ
無いなら無意味だって知ってたんだ
今 無意味のほうがそばに居てくれる

笑顔の学芸員が全てに説明をくれる
あんまりにもおかしくて
腐ったタバコのように呼吸した
何人かの顔写真と遺物のようなアクセサリーを見て
もう一度学芸員の顔を見て

横殴りの太陽
直角の闇

届かなかった気持ち博物館
もう一度訪れるかもしれない
今度はポケットは空っぽで
あの学芸員にも出会うだろう
僕の拳の痣と血反吐の跡をもって
増えたコレクションを熱心に笑うんだろう



自由詩 やわらくて、むちゃくちゃにかなしい、ぼうりょくてきな、ミュージアム Copyright 竜門勇気 2015-03-10 12:07:11
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