春とエレジー
月形半分子

どんなに痛いことだろう

わたしにすらこの街は、こんなにも冷たいのに

ましてやお前は、その土に、身を突き刺しているのだから


身を万力で締め付けられて、どこにも逃げられぬお前に

人目につかぬその土の下は

いったいどんな、残酷な仕打ちをしていることだろう


赤い血が流れぬからといって

それがなんの証になるだろう

涙が流れぬからといって

それがなんの証になるだろう

いつだって他人の痛みなど、人は見ないものだし

涙だって本当は、背骨の裏を焼けるように流れていくものではなかったか


春の到来をつげて、遠くで雷がなっている

とうとう春がくる

冷たく恐ろしかった冬からお前を救うはずの春風が

矢のようにうちつける雨を呼び

その身をひき裂く雷をひきつれているとは、誰が知ろう


桜よ

冬のあいだ

凍えては雪つぶてに叩かれ叩かれ固くなったお前の肌が

とうとうついに春に耐え切れずに

裂けはじめる いたるところ

いたるところ

硬い木肌の奥から、獣とも血ともつかぬ臭いが

見ず知らぬ人の鼻先にまで届くのだ


どんなにかお前は、今、辛いことだろう

その裂け目から

青ざめふるえるお前の瞳がみえる

その瞳が、苦しみをためて薄桃色に尖っては膨らんでいくのだ


どんなにか痛かろう

どんなにか苦しかろう

どんなにか辛かろう


桜 裂けよ 咲けよ と春に歌われて

咲きこぼれかけの、その薄らな桃色が

とうとう、いっせいに満開にちぎれるとき

春も人も、そこに天にも昇るお前の悲鳴を見るのだ 










自由詩 春とエレジー Copyright 月形半分子 2015-03-08 04:10:30
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