原始、言葉はそうであった
コトバスキー

1
原始、言葉は
騒であった
騒である以前に
創であった
創である以前に
奏であった
奏である以前に
爽であった
爽である以前に
想であった
想である以前に
総であった
総である以前に
層であった
層である以前に
然うであった
然うである以前に
そうであった
そうである以前に
さうであった

2
雪ん子お寝坊
藁ぐつはいて
あわててほら穴
飛び出てみれば
御山がなんだか
もじゃもじゃおひげ
おめめはまんまる
銀色三日月
スコップ落とした

雪ん子まゆつば
そんなの御山でないよ
おしろいまっしろ
それこそ御山
ならなら目の前
もじゃもじゃお化けは
何と呼んだらいいのか
わからずうっかり
言葉をポロリ落とした

3
一匹の若い怪物は
言葉の奥深くに潜んでいた

ライオンのような爪をもち
ワニのように大きく口を開き
蛇のような舌がチロチロと

空気の振動拍を透明の中に探し求めていた

それは言った
言葉は単なる音に過ぎず、あまたの原子や分子が
生き物を支配せんと体を揺らしているだけに過ぎない
言葉の振動拍はほかの音よりよっぽど震えるし
たまらなく美味である
人間でゆうところの牛肉のような柔らかさと
脂の甘味を同時に味わうような快感がある
特に人間が騒々しく喧嘩しているときの振動拍は
口にした瞬間に死が訪れても構わないと思うほどに
私の頭脳をとろけさせる

いちばん不味いのは愛をうたう時だ
あんな不快な音を奏でられてはたまらない
互いの想いを伝えるなら
いっそ爽やかに怒鳴りあえばよいものを
気色の悪い音から新しい生命が創り出されるなど
考えたくもない

今日も其れは空気の層のわずかな隙間に潜り込み
総ての言葉を食い尽くそうと自然の中に溶け込んでいる


自由詩 原始、言葉はそうであった Copyright コトバスキー 2015-03-06 19:49:21
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