夜が零れる
梅昆布茶
かつて激しくなにかになりたいと
想ったことがあっただろうか
自分以外のだれかになりたいとはいくども考えたが
それはクラスの席替え程度の安易な願望にすぎなかった
ラモーンズのコピー親父バンドの
エネルギッシュな汗をみる
羨ましいがもう社会的メタモルフォーゼも
ままならない我が身
せめて夜に零れ咲く徒花の春を待つ
実体のなかったもののように子供達の笑い声
若芽の和毛のようにちくちくとやさしく痛い
変容は求めずともやって来るものだが
できるならばより私であるちいさな価値に
寄り添ってある小径だったならもっといい
捨て去る訳でもなくあるものは省略され
いつしか融合してゆくもの
いつのまにか様々なものの順序がいれかわり
空いた隙間をまた何かが埋めて行く
容量を超えたものが流れ去るように
この夜に零れ落ちてゆくものを見送り
春宵のほのかなぬくもりに浸りながら
冷たい器の縁を指でなぞる