ゾウの詩
宮木理人

鉛のようなゾウが大きな鳴き声をあげて、この施設にやってくる。
ゾウは、黒い足で緑色の廊下を歩き、黒くネバネバした汚れを残していく。
ゾウが歩き去ったあと、君はあたりまえのようにモップを取り出し、それを掃除する。
ぼくもあたりまえのようにバケツに水を汲んできて、ぞうきんがけで最後の仕上げをする。
ゆかはきれいなる。
ぼくらはろうかの所定の位置に戻り、またしばらく時間を過ごす。
するとまた鳴き声と共にゾウがやってくる。床を汚す。君はモップをかける。ぼくはぞうきん。

この作業をもう、何千回と繰り返してきた。
あたりまえのように。
思えばいつから、ぼくはどういうきっかけでこの施設に来て、こんな仕事をするようになったのか思い出せないし
ましてや収入すらもらったことがないから、これが仕事であるのかどうかさえわからない。
でもあたりまえのように、ゾウがくると床をきれいにしなくちゃと思う。
またゾウがきた。

モップをかけてる君とは
もうずいぶん長いこと一緒だが
ぼくは君の名前がわからないし、顔も性別も知らない。
ただ「君」ということしか知らない。
それを不自由だと思ったことはない。



自由詩 ゾウの詩 Copyright 宮木理人 2015-03-03 00:03:53
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