日常
……とある蛙

酒浸りの毎日が厭きてくると、突然思い立って詩なんぞを書き始めるようになつた。

 詩を書くことにしたのは、既に日々欠乏しつつある己の体力と得体の知れない精神と何とか帳尻が合うかも知れないと言う甘い憶測に基づく。
出だしは慎重に!!何も抵抗なく書き終えた詩を裏返してみる。
何か透けて汚らしい染みのような物が見える。

とりあえず乱雑に散らかった机の上にほったらかしたまま、晩酌と洒落込む。
鯖のヘシコに菊正宗。
随分と奢った晩酌だが、どうせ独り酒、誰に肴の気兼ねが必要か。
一合のお銚子二本。

乱雑な机の上には朔太郎の「青猫」、尾崎放哉全句集、江戸川乱歩短編集など放って置かれているが、全て途中までしか読んでいない。
そのうちの一冊を手に取ると異様に重く、自分の腕が、いや正確には前腕が突然伸び出して重力に負けて机に垂れ下がった。護謨(ゴム)では無く反発力は無い。だらしなく机に垂れ下がつている。本はまるで机にへばり付いているようだ。
しかし、その有り様はほつ放り出されているだけなのだが。

読むに読めず、書くに書けず。パソコンを立ち上げ、画面越しに他の詩人の詩を読む。眼が溶解してしまつたようだ。次第に薄ぼんやりとした画像しか認識できなくなり、咳き込む。

 花粉症で鼻水が滴り落ちる。
 菊正宗をぐびりと呑む。

 喉の内側から熱い液体が浸みだしてきて、そのまま昏倒。ゆつたりとスローモーションのように天上がぐるぐる回つている。そのうち視野が狭くなり暗転。
 この繰り返しを断ち切ろうと似非詩人になろうとしているのだが。。

 厠へ行こうと目覚め、放尿しながらはっと気づく。
 
 詩を書いた原稿用紙の裏側に浸みだした物がこの日常だったことを。


自由詩 日常 Copyright ……とある蛙 2015-03-02 13:26:02
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