あいつは復讐したがっている
オダカズヒコ
どのみち世界は
俺を受けいれることはないだろうと思っていた
二十歳のころ
俺は生まれてきたことを呪った
憎しみは
親に向けられた
憎しみは
世間へと向けられた
憎しみとは殺意だ
殺せ!と
俺の中の意志は俺に命令した
何を手はじめに殺せばよい?
母親の胸ぐらを掴んだ
母親の背後に
青い海が見えた
父親の胸ぐら掴んだ
父親の背後には
黒い雲が見えた
死は簡単だ
あっという間に心臓の中を通り抜け
世界を粉々に破壊してしまう
世界は俺が思うほど
雄大でも無限でもなく
みすぼらしく
弱々しく存在している
いや
ひょっとすると
存在すらしていないのかもしれないと思った
憎しみは
やがて虚しさへと変わった
俺は
生まれてきた意味を考えるようになっていた
虚しさは
俺から感情を奪ってしまった
嬉しいとか
楽しいだとか
かつて俺を突き動かした
あの憎しみから生まれた
激しい怒りの感情さえ
俺の中から奪っていった
あの憎しみは
世界への憧れから生まれていたのだ
だとすると今の俺は
抜け殻のように
何の意志も持たない
フォルムのような存在なのかもしれない
人生は無意味だという観念が
俺の中心に居座り続けた
無意味に働き
無意味に眠り
無意味に起きる朝
俺の中心に居座り続けた無意味が
やがて徐々に俺の中で育ち
はち切れるほどの生育を遂げていたのだ
最早
無意味はかつての無意味ではなくなっていた
俺が死ぬときには
そいつに名前をつけてやらなければならない
そう思うほどの愛着と
愛おしさにあふれる存在となり
俺の中の中心で
はち切れんばかりの
生育を遂げるのだ
あいつはやがて俺の中から出ていき
こう思うに違いない
かつて俺が思ったように
世界はどのみち
俺を受けいれることはないだろうと