レインドッグ(かすれた鼻歌の寝床)
ホロウ・シカエルボク






雨の音は止まず、俺は今夜も眠り方を忘れて呆然と横たわっている、疲労しているような、それでいて冴えているような奇妙な感覚は、麻痺してしまった日常のタイムテーブルから一時こぼれ落ちた結果なのかもしれない。もしもこの瞬間がいつまでも続くのだとしたら、俺はどんな風にでも言葉を綴ることが出来るだろう…ははん、と俺は自嘲する。冗談じゃない。そんなブッとんだ在り方は趣味じゃない…たとえどんなものが書けるとしても、そんなやり方じゃ書き終えた途端にポックリ逝ってしまうさ、調和を欠いたものは生き続けることは出来ない。大切なのはどれだけ逸脱して見せるのかということじゃない、それをいつまでやり続けられるのかという部分さ…きっとそいつが一番大事なことなんだ…寝床の温度が上がり、雨の音は強くなり、路面に出来た雨の溜まり場を幾つかの奔放なタイヤが引き裂いて、おまけにときたま、家を軋ませるくらいの強い風が吹く。お手上げだ、眠れないぜ…明日は早くから出かけなくちゃいけないというのにさ…。仕事を覚えるために二週間も家を離れるんだぜ、笑えるだろ。こんなことになるなんて全く思いもしなかったよ、長い人生の中で全くこんなことは初めてさ…望んでそうなったのか、流されるままそんなところへ来てしまったのか、実際のところよく判らない。だけど多分、両方なんだろうな。そのふたつの間の空間をうろうろし続けているのさ、きっと…暑い、それにしても暑いな、こんなに暑い夜は久しぶりのことだぜ、今夜は一睡も出来ないかもしれない、明日はきっと使い物にならないくらいだぜ…まあ、いつものことさ。慣れちまってるんだ、こうしたことすべてに。遠出をしなくちゃいけない日に雨が降ったりさ…いつもだぜ。本当にいつもそうなんだ。全く嫌になっちまうよな。神様は余程、俺にこんな気分を味合わせるのがお好きなんだろう…そんな風に納得して飲み込むしかないのさ…神の思し召しなら腹の立てようもないってもんだ…俺の家の外壁には雨が長くなると下手くそなパーカッションみたいな音を立て始める箇所がひとつあって…不思議なことに外から眺めてもそこがどこなのかまったく、皆目見当もつきはしないのだけど…今夜もそれがうるさく鳴り始めた、ますますもって眠れる要素はなくなった…だからこうしてボヤき始めたってわけさ、健康的だろう?眠れもしないのに仰向けに寝っ転がって目を閉じているよりはさ…次のことなんか考えないのが一番なんだ、いまこの時が停滞しそうな予感を含んでいるときにはさ…ふらふらとあちらこちらに傾きながら前進なのかそれとも後退なのか判らない人生の軌跡と現在を吟味してみるのも悪くないってもんだ、君にはそんな瞬間のことが判るかい?こんな人生をそこそこ歩いてきたいま、俺にはひとつだけこうじゃないかと思えることがあるよ…上手く伝えられるか判らないけれどもさ、いいかい…彷徨える人生って結構幸せなもんだって、そんな感じさ。確信して、迷わなくなったらきっとお終いなのさ…そこからの人生は、割振られた役割のようになっちまうんじゃないかって…まあそれにしたって、満更悪いことじゃないのかもしれないけどな…少なくともこんな時間に悶々とするようなことなんか、ないだろうしなーだけど思うんだけど、どんな人生でもさ、そこに何かを見つけようと思わなくなったらお終いだぜ、そうさ…それが出来なくなったときが、きっと本当のお終いなのかもしれないな…。俺はじっとして、雨の音に耳を傾ける、雨は強くなったり弱くなったりしながら、それでも確実に世界を濡らしている。つぎに目覚めたときどんな気分でいるのか、それすらも俺には知る手段がない…。








自由詩 レインドッグ(かすれた鼻歌の寝床) Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-03-01 02:18:26
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