青いクジラ
オダカズヒコ
あれは確か
8月の日の最後の日曜日のこと
海辺に打ち上がった
クジラの噂で
町中が持ちきりになった
青いクジラは
夏の太陽の光を反射し
焼けてグッタリと
眠っていた
ぼくらはまだ小学生で
親に買ってもらったばかりの
新品の自転車の後ろに
メイちゃんを乗せて
浜に急いでいた
彼女はぼくの背中にぎゅっとつかまり
固く目を瞑っていた
クジラ
見たいだろ?
メイちゃんは
大きく頭を揺らし
恐いと言った
ぼくは彼女と一緒に
クジラを見たかった
恐くなんか
ないさ
浜にでっかいクジラが
打ち上がったんだ
こーんなに
大っきい
クジラなんだ
ぼくは見たこともないクジラの話を
メイちゃんに
一所懸命に話した
浜へ通じる
なだらかなカーブを
ぼくらは
下って行った
綺麗な海と空と
緑に輝く樹木が
ぼくの心を
弾ませた
ねぇ!
引き返してよ!
メイちゃんは
ありったけの力で
叫んだ
それがぼくには
聞こえなかった
もうすぐ
クジラのいる浜だ
ブレーキなんて
少しも
必要なかった
ぼくの
青いクジラと
メイちゃんの
青いクジラは
あのカーブの入り口で
永遠の別れを
告げていった
あれは確か
8月の日の
最後の日曜日のことだった