夕映えと春
ゆきむし

廃工場が西日で赤くなる
いつもここから見ている
鉄の階段を駆け下りる夢から冷め
夕映えに気がつく
カーテンのレエスの模様から抜け出たい
破きたい生温かい今日だ
くるまれたまま夜を受け入れる

季節も忘れるほど盲目になっている
音もなく伸びるひこうき雲を
カーテンの隙間から見つめる
風に猫じゃらしが揺れていた
暮れる三十分間しか感じられない
わずかな時間が
わたしと季節の繋ぎ目だった

手のひらの血管も赤い指先も
生きている証じゃなかった
風にそよぐ猫じゃらしが
空に手を広げる洗濯物のハンガーが
この季節が生きていることを
わたしに告げた
春の兆しも聞こえない
鈍くなった耳
身体に流れる血を忘れるほど
季節に生きたい
鼓膜を叩く風にさらされて
息をしたいと思った


自由詩 夕映えと春 Copyright ゆきむし 2015-02-27 17:50:45
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