夕映えと春
ゆきむし
廃工場が西日で赤くなる
いつもここから見ている
鉄の階段を駆け下りる夢から冷め
夕映えに気がつく
カーテンのレエスの模様から抜け出たい
破きたい生温かい今日だ
くるまれたまま夜を受け入れる
季節も忘れるほど盲目になっている
音もなく伸びるひこうき雲を
カーテンの隙間から見つめる
風に猫じゃらしが揺れていた
暮れる三十分間しか感じられない
わずかな時間が
わたしと季節の繋ぎ目だった
手のひらの血管も赤い指先も
生きている証じゃなかった
風にそよぐ猫じゃらしが
空に手を広げる洗濯物のハンガーが
この季節が生きていることを
わたしに告げた
春の兆しも聞こえない
鈍くなった耳
身体に流れる血を忘れるほど
季節に生きたい
鼓膜を叩く風にさらされて
息をしたいと思った