窓に何を探す?
瓜田タカヤ


朝、カイリ(俺の子、当時3歳)を保育園に送った後、カミさんの病院へ行く。

荷物はすでにまとめられていて、俺はそれを車に詰め込んだ。
カミさんと少し話をして、看護婦さんにお礼を言って病院を後にした。

カミさんは点滴をはずせないために、なんと救急車で向かうのであった
俺は家の車で、カミさんが向かう県立中央病院へと向かった。

カミさんは2人目の子供を身ごもっていたのだが、子宮筋腫の為に
2階建ての小さな個人病院から、巨大な県立中央病院へと移ることになったからである。

毎日この個人病院へ子供と来て、子供と帰る日々が続いていた。

いつも帰り際、外に出てから、必ずカミさんの入院していた部屋二階の窓が開き
彼女は俺達にバイバイと言い、
気をつけてねとか言い、とりとめもない話をしたりして、
別れた事がなつかしい。

カイリは家に向かう車内で俺に
「パパ気をつけてみて!」と無邪気な事を言ったりしていたのであった。

県病について、産婦人科に行き、カミさんの荷物を置いて
少し看護婦さんから話を聞き、入院の手続きをしてから
仕事へと戻った。

部屋は前の個人病院とは違い、大部屋になるので、
カイリと来た時にあまりうるさくできなさそうで
ちょっと大変かなあと思った。

あと個人病院とは違ったせわしない雰囲気というか、
悪く言うと、色々な事が作業的な感じがして、気が落ち着かなかった。

カミさんもどこか不安そうであった。
ここに何週間も居たくないよ。と眼で訴えていた。

仕事も終わり夕方、カイリを迎えに保育園へ行った
彼女を車に乗せて、病院へ戻った。

県病へ着き、6人部屋の一番端の窓際に座るカミさんを囲み
みんなで色々話をした。が、どうにも落ち着かなくて
みんなで、食堂のような場所に移動して絵本を読んだりした。

隣の病錬は小児外科になっていて、時折
カミさんと同じような点滴の器具を取り付けた子供が、
暗い蛍光灯の廊下を横切ったり、
口の周りに黒い斑点ができた子供が家族とともに、
おにぎりを、これまた暗く食していたりする光景が現れた。

カミさんはは新しい環境の、どこかささくれ立った希望の雰囲気に
心が萎縮しているようで、俺も落ち着かない病室や、せわしない大病院の
流れ作業的な空気感に、微弱におびえていた。

面会時間が終わり、少し険悪なまま別れた。
エレベーターが閉まるときにカミさんが泣いてしまった。
カイリはそれを見て泣いた。

外はもう真っ暗で肌寒く、風が強かった。

青森の10月独特のシャーベット状の冷たい雨が俺達の身体を乱暴に打ち
俺はカイリを抱いたまま車へとその足を急いだ。

その時、俺の腕を押しのけんばかりの勢いでカイリが背骨を反った。
俺は、寒いのにさあ何してんのよ。とばかりに見あげた。

「ママいないねえ」

カイリは暗闇の中のいくつもの巨大な窓枠らの塊を凝視していた。
暗の14階建て、巨大な病院のいくつにも
規則的に連なる窓らを眺めずっと探していた。

彼女は2階建ての病院の時と同じように、母親が窓を開け、手を振り、
「気をつけてね。」と話すであろう一連の行動を渇望して、
母親を探していたのだった。

俺は強く彼女を抱きながら「ママどっかの窓からパパ達見てるけど
見つからないねえ。」と話した。

家についてから2人でガスコンロの火をつけ、ポップコーンを作った。
それは焦げてしまいイマイチで、子供と苦いねえといいながら残した。

暗闇の中に連なる窓枠達は、現実感の現存だ。
俺達はいつでも、何百もの窓の中のひとつを探している。

そこに映し出されるものが、あらかじめ愛である事を
本当は知っている上で、
俺達は愛に溺れる日常を探している。


散文(批評随筆小説等) 窓に何を探す? Copyright 瓜田タカヤ 2005-02-06 04:33:31
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